移民の食文化


バスで10分で行けるジャージーシティーの一角に、インド人が経営するレストランやスーパーが軒を連ねる通りと、その近くにフィリピン人が経営するケーキ屋やパン屋が立ち並ぶ通りを発見。噂に聞いていた「インディア・スクエア」のレストランの一つで、バターチキンカレーを注文してみたら、日本のサムラートで出てくるカレーとほとんど同じ味で、しかも量が2倍もあって感激。アメリカ人向けにアレンジされたマンハッタンのインド料理店より、はるかに本格的な味だ。店の外も中もインド人ばかりで、アメリカナイズされずに生き抜こうと決心したインド人根性のようなものを街の気配に感じて、感動する。こういう自国の文化や風習を頑に守り抜こうとする移民魂に、いちいち感動してしまう今日この頃だ。

帰りがけには、フィリピン国内でも最も人気があるというケーキ屋のチェーン店で、見た目が日本のショートケーキに似ている生クリームを使ったシフォンケーキを買ってみたら、これも日本の自家製ケーキに近い繊細な甘さと食感で感激。アメリカの砂糖の塊みたいなヘビーなケーキよりずっと美味しい。マンハッタンにある日系ベイカリーのケーキよりも手作り風の味わいがあって、しかも生クリームは作り立ての新鮮さ(値段も半額程度)。フィリピン人の甘味嗜好というのは、あっさり味の好きな日本人に似ているかも知れないと、フィリピン人に対して急に今までなかった親近感を覚えて、店員さんに思わず微笑みかけてしまう。

アメリカで生きるというのはこういうことなのだろうかと、他民族の食べ物をめぐる発見を通して、勇気をもらったような気がする一日。


 * * * * * *

「たかが食べ物」とはいえ、外国で暮らす移民にとって自分のルーツと深い結びつきのある食べ物をできるだけ忠実に再現するというのは、肉体だけでなく精神と魂にとって必須の行為ではないかと常々思う。故郷の風景や家族、友人などの存在をリアルに再現することは不可能であっても、手近な食材を集めて母国の料理を再現するのは、不可能ではない。自分を母国のルーツに繋ぎとめておく上で、もしかしたら食べ物ほど簡単で効果的なものはないかもしれないと思う。


 * * * * * *


ちなみに、フィリピン人経営のパン屋で買った「Mamon」というシフォンケーキ(写真)は、手作り風の素朴な味と、焼きたてのふわふわの食感が絶品。これによく似たシフォンケーキの上にチーズが乗ったものもあり、そちらは日本のチーズ蒸しパンの家庭版という感じです。