坂口登の絵


現代画家の坂口登さんは、ニューヨークに移ってから、本格的な制作活動に入るまでに2年を要したという。「この町と自分の呼吸が共鳴し合うには、それくらいの時間がかかる」と自伝に書いているが、まさにその通りだと思う。ニューヨークの良い面も悪い面も共に受け入れて、その中でいかに自分らしく生きるか、その方法を見つけるまでには確かに2年くらいかかる。生活のテンポの速さといい、人々のテンションの高さといい、日本から来て慣れないうちは、まるでビデオの早送りを見ているような感じで、最初の頃はけっこう疲れた。2年少し経って、ようやくこの速さと密度に慣れてきたような気がする。気持ちの上でも、自分と「日本」の間に程よい距離を保てるようになったと思う。


坂口氏の作品では、西洋と東洋の美意識がけっして対立したり分裂したりせず、1つの作品の中で見事に融合している。色彩と形の中に、日本と西洋が同時に存在する。以前、ニューヨークの展示で見た畳8畳分くらいの巨大な絵には圧倒された。ああいう巨大なキャンバスの絵を目前で見ると、ニューヨークにいてよかったと心から思える。ちなみに昔、ソーホーのスプリング・ストリートのビルの壁面に、ある日突然、竹村健一氏の巨大な顔の絵が出現して謎を呼んだことがありますが、あの絵は日本のテレビCMの依頼で、この坂口氏が描いたそうです。


坂口登さんのウエブサイトはこちら。冒頭のフラッシュで、坂口氏の作品を年代別に見られます。日本の現代画家の多くが、いまだに西洋のモダンアートのコピーじゃないかと思えるくらいにあからさまな影響を作品に出しているのに対し、坂口氏は常に個性を忘れず、独自の美意識と表現を追求しているのが素晴らしいと思います。万葉の美を心に持ちながらアメリカで生きることは可能なのだと、この人の絵を見て勇気づけられました。日本もそろそろ、西洋の影響から解放されてもいいのではないでしょうか。坂口登さんは、この春、日本のどこかで個展を開くそうです。
http://www.susumu-sakaguchi.com


●NYの地元紙に掲載した坂口登さんの紹介コラムはこちらです。
http://home.att.ne.jp/theta/ny-jazz/interview_04.html