モミの木の話

ニューヨークでは、毎年1月の今頃になると、使用済みのクリスマスツリーが路肩に積み重ねられ、市の清掃トラックが巡回して、これを回収していく。日本のゴミ出しのように、「モミの木回収週間」というのがあるらしい。その全部を集めたら小さな森が一つ作れそうなくらいの量のモミの木が、根幹をすっぱりと切断された、いかにも「使用済み」という姿でマンハッタンのあちこちの路上に横たわっている光景を毎年見ていたせいか、アメリカに来てからは浮き浮きとクリスマス気分を楽しむという気持ちがすっかり褪せてしまった。

私が育った三鷹の家はとても小さくて、たたみ一畳分位の庭しかなかったけれど、なぜかそこに小さなモミの木が植わっていて、毎年クリスマス前になるとそれを根ごと掘り起こして、箱に土と一緒に入れて屋内に飾り、ツリーにしていた。クリスマスが過ぎたら飾り付けを全部外して、また庭に戻して埋めていた。それを何年も繰り返しているうちに、やがてモミの木の枝葉が減ってきて惨めな姿になってきたので、そのうち掘り起こすのもやめて、庭に生えているままの状態でクリスマスの間だけ飾りをつけるようにもなった。「ツリーに使われる木も大変だよなあ」と思いながら、縁側から痩せ細ったモミの木を眺めていたのを思い出す。まあ、マンハッタンなどには土の庭のある家などほとんどないだろうから、スパッと根幹を切断されたモミの木を買ってきて使うしかないのだろうけど。宗教と自然との共存というのも難しいものだ。

それにしても、根を引き抜かれても、何とか環境に適応しながら浮き草のようにでも生きていける人間というのは凄いなと改めて思う。