ソニックユース初期のアルバム
ようやく桜も散って、新緑の季節に。満開の桜よりも、こういう新緑の木々を眺めているほうがずっと好きだ。一年中で光がいちばん生き生きとして見える季節。今月は日本に一時帰国する予定だったのだけど、某雑誌用にNYのノイズロックシーンの全容を取材することになったので、NYに残ることにした。日本に帰らなくてすんで実は内心ほっとしていたりして。あのNo Fun Festのノイズロックの熱気を浴びて以来、このシーンに興味が出てきてしまった。先日のソニックユースのライブもとてもよかったし、ああいうエネルギーこそがやはりNYならではの凄さかなと。
今ブルックリンに集まっているノイズロックバンドの面々のインタビューをしたりライブを取材したりしているのだけど、いやほんとこのシーンは面白いです。マンハッタンはジャズもダウンタウンの実験的な音楽のシーンもすっかりしょぼくなってしまったけれど、この5,6年の間にブルックリンで起きている30歳前後の新しいNo Waveともいえるノイズロックバンドのシーンは、今いちばん元気なエネルギーが感じられて、ニューヨークもまだ捨てたもんじゃないなと嬉しくなる。おかげでNYの生活がちょっと楽しくなってきました。やっぱアメリカはロックですね。
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ソニックユースの初期のアルバムをいくつか聴き込む。なぜ今ノイズロックに惹かれるのか。それはいわばこの時代が含む病的に歪んだ狂気のようなものを、健全な精神で打ちのめしてくれるかのようなロックのビートが気持ちいいからである。
● Confusion is Sex (1983)
突き上げるような衝動、地下から今にも噴き出しそうなマグマのような、すさまじいエネルギーを感じる。どこか隠れた本能を揺さぶるような、初期的なレアなエネルギーが貫いている。流れるようなリズム。微妙にぶれる歌や楽器の音階が、不穏な空気を生んでいる(70年代後半のNo Waveの音楽に共通する空気。)なんというか、その時代のざらっとした空気の匂いみたいなものが伝わってくる。
● Bad Moon Rising (1985)
ギターのフレーズの歪み、音階がわずかにぶれたボーカル、和音になりそうでならない様々な音の交錯が、一種めまいを起こしそうな感覚を与えている。このわずかに「はずした」感じが、どこか遠くを眺めているような、なんともいえない恍惚感を生んでいる。とはいえ、アブストラクトや幻想的な方向にのめり込みすぎず、あくまでもロックとしての領域にとどまっているところに、すがすがしさと健康的な精神を感じる。個人的にはこの頃のソニックユースがいちばん好きかもしれない。
● Evol (1986)
力強いビートが印象的。前作よりもロック色が濃くなり、叙情的なメロディーが深い情感を生んでいる。このバンドらしい流れるようなリズムとみずみずしいエネルギーは健全。
● Sister (1987)
明るさを含んだギターとボーカルの和音とロックのビート。80年代半ばにソニックユースがマドンナやプリンスやブルース・スプリングスティーンなどのポップカルチャーの影響を受けた頃のアルバム。全体的にポップな感じのする作品ではあるけれど、それでもギターやベースの音にはソニックユースらしい複雑な構成(グレン・ブランカのギター大編成の和音を思わせる厚みのあるサウンド)が感じられて、けっしてチープなポップバンドのサウンドには陥っていないところが素晴らしい。No Waveのノイズと80年代のポップスを、アーティスティックな形で融合させた傑作。