Sightings


右の写真は、今のNYのいわばNo Wave新世代ノイズロックバンドとして注目されている「Sightings」のギター&ボーカルのマーク・モーガン(トニックで撮影)。No Fun Festivalでのライブの様子はこちら

Sightingsは、70年代後期のNYのNo Waveシーンの初期的な無形のエネルギーのようなものを、今もっとも体現しているブルックリンのバンド。現在の若い多くのノイズロックバンドが電子音やループ音などによる音響効果を取り入れているのに対し、Sightingsはアナログ的な野太いノイズで真っ向から勝負する、いわばストレートアヘッドにディープな演奏を展開するノイズロックバンドだ。エレキギターのメタリックノイズの炸裂、ベースの重低音のフィードバック、アフリカや日本の太鼓を彷彿させるドラムスの太いビートが、見事なバランスを保ちながら、アングラ演劇にも通じる人間の原始的な創造への衝動をストレートに伝えている。灰野敬二の影響を受けたと言うマーク・モーガン(ギター)のかすれたうめき声のようなボーカルは、邪悪なものとはむしろ対極にある透明でピュアな空気を感じさせ、ロックの疾走するビートとともに混沌をカタルシスへと導く。(←これライブで聴くと、ものすごくいいです。)「アート・ロック」という名にもっともふさわしい現在のノイズロックバンドといえるかもしれない。アナログ系の濃いノイズロックやメゴのピタ作品が好きな人におすすめかも。



● Sightings / Arrived In Gold (2004), Absolutes (2003)

                                                                                                                              • -

【Art Rockについて】

パンクロックとは違う、アート畑の出身者たちが70年代後半から80年代にかけて生み出したNo Waveシーンの、いわゆる「Art Rock」と呼ばれる音楽を聴きながら思ったこと。

art や artist という言葉を日本語にするのはとてもむずかしい。「アート」という響きでは軽すぎるし、「芸術」とか「芸術家」 とかいうと、何やら年老いた大芸術家先生の下で弟子たちが手もみしながら自分の出番を待っている日本の芸術界の偏狭な派閥のイメージが浮かんできてしまって、なぜか自由な精神とか純粋な創造意欲というのはあまり浮かんでこない。まともな歌ひとつ歌えないアイドル歌手さえもが「アーティスト」と呼ばれている日本では、art の本来の意味が誤解されている気がする。art というのは本来、「アート」というコトバのイメージよりはるかに深遠で切実な行為であるはずだし、「芸術」というコトバの堅苦しいイメージよりはるかに自由な創造行為であるはずのものである。art というのは広告代理店が戦略的に編み出す表層的なイメージのスパイスなんかではないし、artist は有名プロデューサーによってイメージを捏造された人形のように、自らは何も生み出せないパフォーマーたちとは違う、自分の内側から生まれる創作意欲によって動かされる人たちのことである。…なんてことを言っていると、また日本の社会では浮いてしまうんですけどね。でも「アート・ロック」って日本語にすると、なんだかやっぱり軽々しい響きに聞こえるなあ。

でもCBGB(下の写真)にはそういうNo Waveのアーティストたちが出ていたのか…と思うと、今さらながらにすごい場所だったんだなあと感慨を深くする。クラブとしての存続はやはり難しそうだけど、NY市の歴史的な記念物として店の門構えはこのまま残すことになるかもしれないとか。