ニューオーリンズ、その後


ニューヨークのジャズ・メディアの友人たちと、久々に会って夕食。なんとなく、ウディ・アレンの映画に出てきそうなシチュエーションだなと思いながら、情報を交換し合う。ニューヨーク・タイムズにジャズ評論を載せている知人のライターが書いたニューオーリンズの惨事とジャズの行く末についての大きな記事が、明日か明後日の紙面に載るという。彼は今もニューオーリンズのミュージシャンたちと連絡を取り合っているらしいが、ジャズ・ミュージシャンの多くはハリケーンが襲った日の前日までに他州の親戚や知人の家に避難しているので安全だというが、行く場所も金もないミュージシャンたちは今もニューオーリンズに残っているらしい。アレックス・チルトンや、ニューオーリンズのソウルの歌姫と呼ばれるアーマ・トーマスなど、有名なロックやソウルのミュージシャン数人がいまだに連絡がつかずに行方不明だという。(行方不明だったファッツ・ドミノはついさっき生存が確認されたらしい。)つい先週までは現在進行形で存在していた、奴隷制の時代から特別なスピリットを受け継いできたニューオーリンズの音楽という文化が、一瞬にして失われてしまったことに唖然とする。これからあの伝統はどうやって生き残って行くのか、現地をよく知るジャズ評論家でさえ検討がつかないと首を振る。

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ニューオーリンズの状況が日に日に悪化しているこの最中にも、USオープンや大リーグの試合は何事もなかったかのようにいつも通りに盛り上がっているし、テレビでは相変わらずコメディー・ショーが流れている。避難所への水や食料の供給が遅れていたり、軍による救出活動が出遅れているというのは、ちょっと理解に苦しむ。ニューオーリンズがもともと黒人が多く、貧困や犯罪の多い地域だったというのと、この政府の対応の遅さとの間に関連性があるように感じるのは気のせいだろうか。もしこれが南部ではなくて東部のニューヨークやワシントンDCのような国の中枢部だったとしら、もっと迅速に救援活動が始まるのではないだろうかと思ったりもする。他の国に爆弾を落としに行く時はあっという間に決断するのに、自国の一都市を救う時にはあたふたして出遅れるというところに、この国の盲点があるような気がする。

あと、テレビ局のヘリコプターが浸水した家の上空に近づいた時に、プロペラの疾風で家の屋根が吹き飛ばされてしまったり、窓から助けを求める黒人家族をカメラのクローズアップで映し続けた後そのまま去っていったのも、見ていてちょっと愕然とした。いくらメディアの仕事は報道のみという決まり事があるにしても、カメラで映した後にヘリコプターに乗せられるだけ乗せて避難所まで運んであげることくらいできたのではないだろうか。救援物資を運んできたヘリコプターも、「物資を落としたら避難民たちがパニック状態になるから小出しに落とさざるをえない」というけれど、そうやって小出しにするからますます皆パニックになっているんじゃないのか。もっと早くから、ひっきりなしにヘリコプターで救援物資を落とし続けていれば、奪い合いだってこれほどひどくはならなかったんじゃないのと思ったり。こういう災害時の報道と救援のあり方には、いつも疑問を抱かずにはいられない。今回のハリケーンがニューオーリンズを壊滅状態にするかもしれないというニュースは、ハリケーンが近づく2日前からすでに報道されていたのだし、それなら避難場所となりうるドームに、すみやかに救援物資を届ける準備をあらかじめ済ませておくこともできたのではないだろうか。