No Fun Festival初日の感想


No Fun Festivalはアメリカ全土(特にもっとも熱いといわれる中西部のロックシーン)から集まった形容しがたいノイズロックパンクメタル電子音なんでもありのハードでコアなフェスティバルで、ウィーンのメゴやスイスなどからもゲスト的にアーティストが出たりする。

初日はメゴのヘッカーが出るというので聴いてみたかったのだけど、14個のバンドが終わって最後の深夜2時頃にならないとヘッカーの出番はないというので、中西部のオハイオ州から来たというノイズロックバンド2種を聴いただけで帰宅した。会場の「The Hook」というのは、ブルックリンのレッド・フック地区という埠頭に近い薄暗い場所にある倉庫風のクラブで、ふだんは地元のロックバンドなどが出ているらしい。深夜になると人気もなくなり物騒な雰囲気になるので、あまりうろうろしたくないなと思い早めに帰ってきました。ということで、No Fun Festival 初日の感想。

もともとアメリカの中西部でロックバンドをやっていた人たちがウィーンのメゴとか日本のメルツバウとかのノイズに影響を受けて、コンピュータノイズを取り入れたロックを始めたのではないかと思われる素性のサウンドである。電子音ノイズが入っている分、昔のロックやパンクに比べれば進化しているようにも思えるのだけど、なにしろ本来が土着のロックバンドなものだから、音もアナログな塊を投げつけられているような雑然とした感がある。盛り上がってくると、ステージからほんとに酒の瓶が飛んできたり、わけのわからぬ液体が火の粉のように降り掛かってきたり、お約束のボーカルが熱狂した観衆の真ん中に飛び込んだりもする。たけなわになるとラリッたバンドのメンバーがケンカを始めてPA装置を破壊したりもする。バンドの迫力や熱気はさすがにすごいし、今のアメリカの若いロックファンの狂乱ぶりを見物するのにはなかなか見応えがあって楽しいので毎年つい通ってしまうのだけど、正直いうと音楽を聴きに行くというよりはライオンの火の輪くぐりを見物に行くような恐いもの見たさの心境であったりもする。

ヨーロッパのメゴなどの緻密に構築された繊細な電子ノイズに対抗するかのように、アメリカのノイズロックバンドは生来のアナログ系ロック魂と腕っぷしの強さとスタミナのみで勝負しようとしているかのようにも思える。そういうタフな(あたかも巨大なトラックでセメントを流し込むような)野太いサウンドに興奮する観客というのもいかにもアメリカらしいのだけど。個人的にはアメリカのおおらかさというのは大好きだし、あまりアメリカのことを悪く言うのはやめようと自らをいさめたばかりなのだけど、それでもこういう演奏を聴いていると、アメリカの若者というのはタフでクールになろうという国民的スローガンゆえに、それと引き換えに繊細さとか感受性とかを失っているんじゃないかと疑いたくなる。これも「恥」を知らない(というか何をしても恥ずかしいと思わない)アメリカの文化なのかなあとつくづく思ったり。どうせおれたちは土着のロック魂だよという開き直りも見ている分にはけっこう面白いのだけど、電子音やノイズを取り入れるんだったら、音にもうちょっと敏感になってほしい。こういうアメリカ中西部の終末的ノイズロックバンドを聴いてしまうと、アーストワイルなどはまるで涼やかな初秋の晩の虫の音の合唱みたいだ。アーストワイルというのはほんとにアメリカの孤島だよなあ、としみじみ思ったり。

・・・などど言いつつも、下の写真のコンピュータ加工入りのノイズロックバンドはエレキギターの弦を弓でこすったり、人の肉声をマイクでがさごそノイズにして入れてみたり、ドラムスも音響ぽいサウンドで、けっこう楽しめた。アメリカはアメリカでそれらしいアプローチをしているのだなということで。(“火の輪くぐり”とか言っておきながらあまりフォローになっていないなこれじゃ。)