気になる本数冊


年末年始に読んだ北里義之氏の『サウンド・アナトミア 高柳昌行の探究と音響の起源』(青土社)と大谷能生氏の『貧しい音楽』(月曜社)の2冊の衝撃があまりにも大きかったので、このところ数年ぶりにまた読書にはまっている。

先週は、ガブリエル・ガルシア=マルケスの小説『Love in the Time of Cholera』(1988/英訳版)を読んで、半世紀という壮大な時間の流れの中で変化していく男女の愛を、残酷なほどのリアリティとあり得ないようなロマンティシズムという一見相反するように思える要素を合体させて描き切った作者の筆力に感動した。19世紀末の世紀の変わり目のコロンビアの状況も描かれているので、とても興味深い。森林が破壊されてマナティーが絶滅に追い込まれていった当時の南米の自然環境の変化なども、さりげなく描かれている。ハリウッド的に演出された映画の方は不評だったようだが、原作の方は圧倒的な力を感じさせると思う。(日本でも新潮社から『コレラの時代の愛』というタイトルで翻訳本が出ている。)

今はその読後の勢いで、イタリアの小説家アルヴェルト・モラヴィアの『Contempt』(1954/英訳版)を読み始めたところ。こちらは、ゴダールの映画『軽蔑』の原作。英語圏以外の国の作家が書いた小説というのに最近興味があるので、手当たり次第に読んでみようと思っている。

日本の出版物では、このところ音楽関係の評論ものが何だかとても面白くなってきている。最近刊行された『大谷能生フランス革命』(以文社)もぜひ読んでみたいので、ニューヨークの紀伊国屋書店に入荷するのを心待ちにしている。そういえば、私がちょうど日本を離れる準備をしていた時期の前後は、佐々木敦氏の音響論の本などが出版され始めた頃で、日本でも新しい音楽を紹介する中身の濃い音楽本がようやく出始めた頃だった。渡米してから日本の出版物からしばらく遠のいていたので、その後の動向はあまり把握していなかったけれど、昨年末に帰国した時に久しぶりに本屋を訪れた時には、音響など新しい音楽関係の評論本がずらりと棚に並んでいたのを見て感動した。北里義之氏の今後の評論もぜひ読んでいきたいし、web-criに優れた音楽評を発表している野々村禎彦氏の執筆物(『ユリイカ大友良英特集号に載っているディスコグラフィーなども永久保存版の価値あり)などにも注目している。

こうした日本の革新的な音楽評論の波が高まりつつある今、日本発の優れた評論を海外に紹介できるような英語の媒体もぜひ誕生してほしいと思う。『Wire』や『Signal To Noise』だけじゃ、ちょっとねえ。