新シリーズ「ErstPop」

アーストワイルから「ErstLive」に続く新シリーズ「ErstPop」がこのたび誕生します。実験音楽や電子音響のジャンルで活躍するミュージシャンらが、ポップ調に演奏するとどんな音楽が生まれるのか。ということで、第1弾は今年6月頃リリース予定のこの作品です。

■EP001: The Magic I.D. (Margareth Kammerer / Christof Kurzmann / Kai Fagaschinski / Michael Thieke)

ベルリン在住の4人の実験音楽ミュージシャンが結成したグループ「The Magic I.D.」によるポップ系の音楽。マーガレット・カマラーのギター弾き語りとクリストフ・クルツマンのラップトップ弾き語りの上に、カイ・ファガシンスキーとマイケル・シーケのクラリネット2本の音色が不思議な音調で重なる演奏です。しんみりと弾き語る2人の男女の回りを、アンテナ付きの白い物体がふわふわ浮かんでいるような素敵な音楽です。2006年11月16日、ウィーンのアマン・スタジオで録音。

http://www.myspace.com/themagicid

                                                        • -

□新シリーズ「ErstSolo」

さらに、もう1つの新シリーズ「ErstSolo」の第1弾も、今年6月リリース予定として現在制作中です。こちらは、ソロの即興演奏をフィーチャーしていきます。

■ES001: Keith Rowe 「The Room」

                                                        • -

□Erstwhileの次の新譜

従来のErstwhileのシリーズからのリリースとしては、下記のデュオの新譜を制作中です。

■049-2: Dieb13/ErikM 「Chaos Club」(今年6月頃リリース予定)
■051: Peter Rehberg/Marcus Schmickler(今月中にケルンでレコーディング、今年末にリリース予定)

                                                        • -

□3/25追記

・・・ケルンでレコーディング中のピタとマーカス・シュミックラーから、今日、録音したての演奏のクリップがいくつか届きました。mp3でもとてもいい音なので、おそらくオリジナル録音はさらに優れた音質かと思われるので、本物を聴くのが楽しみです。録音した音楽をミュージシャンがその場でアップロードし、パスワードを使えば世界中どこからでもダウンロードして聴けるというのは、すごいことです。


・・・どうぞお楽しみに!

                                                                                                                                            • -

■ErstPopの誕生について

去年の11月に、The Magic I.D.がウィーンでレコーディングをした直後に、ミュージシャンからそのCDRが届きました。当時、彼らはアーストワイルではなく、どこか別のポップ系のレーベルを探していたのですが、アーストワイル本部では、このラフミックス盤を聴いて「おおっ、これはいい!」とすっかり気に入ってしまい、しばらく愛聴盤として毎日のように聴いていました。とはいえ、硬派の即興レーベルのイメージの強いアーストワイルからリリースするにはポップすぎるし、ちょっとうちでは出せないよねえ…と残念に思っていたのですが、何度も聴き込むうちに、ますますこのバンドの作品が気に入ってしまい、何とかアーストワイルから出す手段はないだろうか…と考えあぐねた結果、「ErstPop」なる新シリーズを作り、そこから出したらどうかということになり、ミュージシャンの同意も得て、念願のリリースが決定したという経緯であります。


■Margareth Kammerer (vo, g)

このバンドのボーカル&アコースティックギターのマーガレット・カマラー(イタリア出身でベルリン在住)の声とギターは、2年前にニューヨークのオフ・ブロードウェー系のシアターで彼女が歌とギター演奏で出演したのを観た(聴いた)時から、大変注目していました。彼女は、2004年のAMPLIFYベルリン祭のラストで、「schnee」のライブにもバックコーラスとして参加していました。思いがけないタイミングに、素っ頓狂な勢いで入る独特のボーカルが非常に忘れがたく、一度聴いたら忘れられない声という印象でした。感情的な色づけや震えのようなものを一切もたない、中立的な表現が特徴的なボーカルで、かといって冷たい印象ではなく、突き放すような厳しさがあるようでいて、実はあらゆるものを大きく包み込むような豊かさが感じられるという、不思議な声の持ち主です。この人の歌を聴いていると、なぜかビリー・ホリデイの声を思い出します。ジャンルや表現の仕方はまったく違うのですが、根底にある何か深いものが似ているような気がします。心に貼りついてしまう声とでもいうか、聴くたびに特別な声だと感じます。

ちなみに、彼女のソロボーカル作が、charhizmaレーベルからも出ています。
http://www.charhizma.com/animal/



作曲ものではなく、あくまでもアブストラクトな即興にこだわりたいというアーストワイルではありますが、即興であれ作曲であれ、本当に優れた音楽に出会える確率というのは非常に少ないし、そういう作品に出会った時には、たとえジャンルが何であれ、取り上げていきたいというのが、アーストワイルの願いであります。

ジャンルの境界線にシビアにこだわるリスナーにとっては、なんでアーストワイルがポップを?と思われるかもしれませんが、ジャンルという狭い井戸にとらわれることなく、「自分の耳」で音楽を聴き、他人の尺度ではなく、自分自身で音楽を判断するというのは、どういうことなのか。そういう聴き方ができてこそ、本当の意味で「音楽(=音を楽しむ)」を体験できるのだと信じています。