雑感

yukoz2006-10-07


フェスティバルが終了してようやく一息ついたところですが、アーストワイル本部では早くも次のフェスティバルのプログラムと開催地について、検討を始めています。今回NYで開いたフェスは3つのレーベルの共催ということで、出演者のラインナップにも各レーベルの好みが反映されて、それが全体に奇妙に面白い変化を与えて意外な面白みを発見できたフェスティバルとなったのですが、次回は(もし予算や場所などの都合がうまくつけば)、ばりばりのアーストワイル好みの「AMPLIFY」フェスを再開できたら…というのが今の夢です。

今回のフェスティバルを通して痛感したことでもあるのですが、やはり本当に自分たちが聴きたいと思う演奏者を招く(そしてできれば本当に好きな場所で開催する)というのが何よりも大事なのだと思いました。アメリカに拠点があるからアメリカでできることをやるというのも、便宜上、仕方ないことではあるとはいえ、アメリカでやるにしてもお金はかかるのだし、どうせお金をかけるなら本当に納得できるところにかけたいというのが正直な気持ちです。そういう夢を持てなかったら、何のためにこうしてストレス抱えながら毎週の締め切りに追われて働いているのか、その意味を見いだせずに余計にストレスがたまっていくばかりだと。でも、もう一度、あの2004年のベルリンの時みたいなAMPLIFYを実現できるのなら、がんばって仕事を増やしてお金を貯めようと前向きになれるし、どうせやるなら努力が感動に結びつくようなことをしないと、無味乾燥に日々が過ぎていくだけだなと。アメリカに来て落ち着いて以来、正直なところ夢も野心もすっかりしぼんでしまい、これといった目標もないまま締め切りのある仕事を片っ端からこなしていくだけの毎日を過ごしていたのですが、今回のフェスティバルが思い出させてくれたことと、次のフェスティバルのことを考えると少しエネルギーが沸いてきました。もちろん予算のことを考えると、そう簡単にすぐに実現できるわけではありませんが、とりあえず日々の仕事を片付けながら、来年の秋頃を目標に、開催地はまだAMPLIFYフェスティバルをやったことのないあの場所を夢に見て、アーストワイル本部で少しずつ計画を練っていきます。

追加ですが、フェスティバルの反省点など。もともと、計画の段階で4日間に20セットというのは、ちょっと多すぎるよと思っていたのですが、実際これは多すぎたという気がします。3日間で1日3〜4セットずつでも十分だと思いました。ただ、今回はアーストワイル主導とはいえ、3レーベルの嗜好を反映させなければならないということで、あのようなラインナップになったわけですが。まあ、それはそれで面白い結果にはなったのですが。観客の反応も、アメリカ中西部のノイズやボストンの即興系、日本(およびNYの一部)のサイレントな即興系、ウィーンやベルリンの電子音響・即興系、ノルウェーのジャズカマーなど、好みが極端に分かれていたようで、各セットの好き嫌いがはっきり出ていたように感じます。各ジャンルにおける美意識の違いというのが、明白に出ていたイベントだったと思います。個人的には(ボストン即興系以外は)ほとんど好きなのですが、アメリカ中西部のノイズやジャズカマーは「No Fun Fest」でも聴けるのだから、このフェスティバルにはいらなかったかもと思いました。観客の約半数ほどが、地元NYではなく、よそから飛んで来た人たちだというのも、興味深かったです。

あと、会場のトニックは、NY中の可能性を当たってみた結果、音響、収容数、交通の便、値段などをすべて考慮すると、ほかには場所がなかったのですが、座席が少ないのでほとんど立ち見になってしまうこと、開場前に長蛇の列に並ばなければならないこと、微音即興演奏にはやや向いていないことなど、いろいろと問題点がありました。でも、ニューヨークでこういうフェスティバルを開くとなると、他に場所がないこともあり、NYでこれ以上のフェスティバルを開くことはおそらく無理だったかなという気もします。救いは、トニックの音響が以前に比べて格段によくなっていたことです。ひと頃はかなりひどくなっていたので(経済的な問題のためだったのか)、それが心配だったのですが、その後スピーカー・システムを質の良いものに変えたのか、大音量の演奏でも大丈夫になったようです。

最終的にすべてが終わった後の感想としては、ニューヨークに「ウィーンやベルリンみたいな場所」を求めるのは、やはり無理があるのかな…と、ちょっと限界を見たような気もするフェスティバルでした。ただ、個別のセットで、ものすごくいい演奏をいくつか聴くことができたので、そのおかげでもろもろの問題を超越し、個人的には貴重な音楽体験を得られたフェスティバルだったと思います。NYにはNYの美意識というのがあるし、それはたとえばウィーンや日本などとは異質のものなのだというだけで、どちらが優れているとは言えないのだけど、個人的に惹かれるのはやはり「外」の音楽だなというのも実感しました。