Cacio e Pepe (チーズと黒こしょうのパスタ)

yukoz2006-02-06


リトルイタリーには90年以上の歴史をもつチーズ専門店が数件あるが、「ディパロ」という店は中でもNY最高のチーズ専門店として知られている。狭い店内はいつも満員の客であふれていて、そのほとんどがイタリア食通の常連。ここは自家製フレッシュ・モッツァレラを始め、イタリア直輸入の季節物の珍しいチーズも手に入る貴重な店で、100年物のバルサミコ酢なども置いてある。チーズの中でもパルメジャーノ・レジャーノやペコリーノ・ロマーノは他の店では手に入らない絶品だし、オリーブオイルの種類も豊富。まさにアメリカに移住したイタリア人の妥協なき食へのこだわりが集約されているような店である。

通い慣れると、チーズやオリーブオイルの選び方などを店の人に尋ねるコツを覚えられる。この店の人たちは一見無愛想なのだけど、チーズの種類や用途に応じたお薦め品などを質問すると、こだわりの人らしく熱心に教えてくれるのが嬉しい。頼めば試食も可能で、チーズや生ハムを大きく切り取ってそのまま素手で渡してくれたり(これがとても美味しい)、オリーブオイルを選ぶ時は大きくちぎったパンの片にオリーブオイルをつけて試食させてくれたりする。なので、この店に来ると、いつも買い物が終わる前にまるで一人分のランチを食べた後のように満腹になる。予算があまりないのだけど、それでも美味しいオリーブオイルは買えるだろうかと聞くと、嫌な顔一つせず安くて美味しいオリーブオイルを教えてくれる。チーズの値段も、イタリア直輸入のペコリーノ・ロマーノが200gで3ドルくらい。庶民にも優しい店である。

この店で試食させてもらったペコリーノ・チーズがあまりにも美味しくて感動したのが、黒こしょうとチーズのパスタ「Cacio e Pepe」を作ろうと思ったきっかけだった。以前、マリオ・バターリ氏の「Lupa」で食べてその味に感動し、その後ローマのレストランで食べる機会があったけれど、本場ローマの「Cacio e Pepe」はかなりチーズのコクがこってりしていて、あまり量は食べられなかった。アメリカ版ともいえる「Lupa」のパスタの方が一般人にも馴染みやすい気がする。NYにはもう一軒、その名も「Cacio e Pepe」というイタリア・レストランがあるのだが、この店の同名パスタはイタリア人好みなのかチーズの味がかなり強烈だった。巨大な樽をくり抜いたような形のパルメザン・チーズの中で、熱いパスタにチーズを絡めて出すところは、本場ローマ風。この店はいつもイタリア系の客でごった返していて、和気あいあいと陽気に騒ぐ客たちを見ていると、イタリアにいるような錯覚がして面白い。(でもテンションがかなり高い時でないとつらい。)


「Cacio e Pepe」というパスタ料理は、ニンニクも赤唐辛子もタマネギも使わない、チーズの味がまさに決めてという感じの直球勝負のパスタでもある。チーズを絡めるスパゲッティ麺も、少々高くてもオーガニックの麺を使うのが断然おいしい。チーズがメインだと味がしつこくなるかと思いきや、多めの黒こしょうが全体の味をぴりっと引き締めてくれるし、ペコリーノ・チーズはコクのある中にもすっきりした爽やかな味わいがあり、一度食べるとまたすぐに食べたくなるような味で、作り始めの頃は週に2回も作っていた。ニンニクを使うと意外にもチーズの臭みが逆に強調されてしまうので、チーズとオリーブオイルと黒こしょうたっぷりのみの味付けがベスト。塩加減は、ゆで汁に多めの塩を入れて、ゆでながらパスタに自然に塩味を浸透させる感じ。後でペコリーノ・チーズの塩分も加わるので、仕上げの塩はほんの少しでよい。「シンプルに素材を生かす」がモットーのローマ風料理のまさに基本ともいえるパスタだ。

【作り方】(2人分) ※ 1カップは250cc

1) 大鍋に水をたっぷり入れて、塩(海塩がよい)を大さじ1ほど入れて沸かす。

2) すりおろしたペコリーノ・ロマーノとパルメジャーノ・レジャーノを、7対3の割合で合わせてカップ1/2分用意する。

3) 粗挽きの黒こしょうを大さじ1、用意する。

4) 沸騰した湯にスパゲッティ麺(230g)を入れて、アルデンテに茹でる。ゆで上がる前に、ゆで汁を1/2カップほどとっておく。

5) スパゲッティをざるにあげて、大鍋の湯を捨てたら、そこに麺を戻して、オリーブオイルと無塩バター各大さじ2、黒こしょう大さじ1/2を加えて混ぜる。(麺がくっつかないように注意。)ゆで汁カップ1/4を加えて、中火にし、1分ほど混ぜながら、黒こしょうとオイルを麺全体にからませる。スパゲッティの固さを見て、まだ固めならゆで汁の残りをさらに足して、好みの固さになるまで混ぜる。

6) 火を止めて、鍋にチーズの半量を振りかけ、チーズが麺にまんべんなく絡むように手早く混ぜたら、塩こしょうで調味する。皿に盛りつけ、余ったチーズと黒こしょうを別皿に入れて出し、好みでパスタに加える。


【追記】

チーズの量は、もう少し多めに入れたいと感じる程度にとどめておき、食べる際に好みで増やすのがよい。ペコリーノとパルメザンチーズの割合も、好みで変えてよさそう。ペコリーノを多めにするとコクとシャープな味わいが強くなるし、パルメザンを多めにするとややあっさり目のマイルドな味に。ペコリーノのみやパルメザンのみでもOKだが、チーズはなるべく買ったばかりの新鮮な時に使うのがおすすめ。古くなると、味がややくどくなるかも。バターもできれば無塩の新鮮なものがよい。スパゲッティは中くらいの太さの麺が合うが、エンジェルパスタのような細麺でも美味しい。