イーストヴィレッジの危機?

トニックだけでなく、ロックの殿堂CBGBも家賃を払えなくて店を閉鎖するかもしれないと各紙に書かれている。イーストヴィレッジのあのエリアは、この1年くらいの間に急に小綺麗なレストランやバーが立ち並ぶようになり、あの薄暗くて物騒だったトニックの通りにもファンシーな店が出現して、最近はおしゃれな若者たちの最新穴場となりつつある。身なりなんか気にしないトニック系のコアな音楽ファンとはちょっと雰囲気の違う若者層に占拠されつつあるようだ。

CBGBとトニックの経営危機についての「ニューヨークポスト」紙の記事↓
http://www.nypost.com/news/regionalnews/40710.htm


この1年くらいの間にダウンタウンの家賃が高騰したのも、かつては危険だったあの界隈が今ではすっかり安全になり、イーストヴィレッジが新たな流行の先端エリアとして生まれ変わりつつあるのも理由らしい。トニックの家賃がどのくらいなのかは知らないけれど、おそらく今あの辺りは月100万円くらいするのではなかろうか。でもCBGBなんて一時はあれほど有名な場所だったわけだし、もし当時の売り上げを貯金しておいて、もっと早い時期にビルごと買い取っていれば、今になって高い家賃に泣かされることもなかったんじゃないの?という気もする。(実際それは可能だったらしいけれど、何にお金を使ったんだか今ではまったく残っていないらしい。唖然)

このところマンハッタンや周辺のブルックリンやジャージーシティの地価が高騰している背景には、80年代の円高ドル安の頃に日本がNYの一等地を買い占めたのと同じように、現在はユーロ高のためにヨーロッパの人々が進出してきている状況もあるようだ。ただし、このようなバブルも長くは続かず、ドル安が止まればいずれは地価もまた下落して落ち着くだろうという読みもある。はたで見ていると、治安がよくなればよくなるほど、地価高騰のバブルに巻き込まれる傾向にあるようだ。

トニックの方はたとえ今回家賃数ヶ月分を無事に払えて、しかも壊れた下水管を完全に修理できたとしても(これもかなり高額らしい)、今後さらに家賃が高騰することは考えられるし、今のような経営で乗り切っていけるかどうか、外野ながら不安は残る。何しろチャージが安いし(5ドル〜20ドル)、ほとんどのダウンタウン畑の顔見知りミュージシャンたちはただで入れてもらえるから、観客よりも地元ミュージシャンたちの溜まり場になってしまっている感もあるし、このままではまずいんではないの?とまじめに思う。地元ミュージシャンを支援する意味でチャージを無料にするのはいいけれど、それに甘んじてだらだらと入り浸って他人の演奏中にもしゃべりまくっているミュージシャンもいるし、はっきり言って最近のトニックにはかつてのような「音楽を真剣に聴きにくる」という緊張感があまりない。この1、2年、私自身トニックにあまり行く気がしないのも、このダラダラ感が嫌いだからである。コミュニティを大事にするのは素晴らしいことだと思うけど、視線がその内部にばかり向いてしまうと、大事な部分が見えなくなってしまう。イーストヴィレッジが小綺麗なレストランやバーで埋め尽くされ様変わりしつつある今、ニューヨークの音楽シーンは大きな転機を迎えている。今後の音楽コミュニティの存続方法については、これまでのように他力本願ではなく、一人一人が真剣に考えていかなければならないと思う。

とはいえ、やはりトニックは新しい音楽を聴ける場所であり続けてほしいし、日本や欧州からの面白いミュージシャンを聴ける唯一の場所であるのは事実だし、なんとかファンの後援に支えられて存続してほしいと願っている。

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■その2・・・治安がよくなったはずのトニック近くの路上で、先日若い女性が銃で撃たれて死ぬという事件が起きたけれど、それは新しくできた小綺麗なバーで朝まで飲んでぐでんぐでんに酔っぱらった男女のグループが、金目当てで絡んできた若い男にふざけた態度で対応したのがいけなかったらしい。「治安がよくなる」というのは、その結果、こういう危機感のない軽率な若者が通りに増えるということでもあり、その危機感のなさが愚かな事件を招くのだと思う。以前のように人通りもなく物騒な空気が漂っていた頃には、こんなおバカな行為はイーストヴィレッジでは見かけなかったし、トニックに出入りする客たちはずっと思慮深くて賢かったと思うのだけど。

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■その3・・・トニックの窮地とミュージシャンやファンによる支援のことで、「タイムアウト」誌の最新号がさらに詳しく述べている。昨年8月に強盗が入って7千ドルを盗まれた頃から、すでに経営困難に陥っていたらしいけれど、家賃を半年も滞納する前にもっと早くから救援コンサートやファンからの援助を呼びかけていればよかったのにと残念に思う。先週のオノ・ヨーコ誕生イベント&トニック救援コンサートに続いて、今週も連日トニックでは様々な救援コンサートが予定されているけれど、なんとか無事に資金が集まって乗り切れるよう祈るのみ。予想以上に事態は深刻のようだ。

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■その4・・・トニックの代わり(といってもまだなくなると決まったわけではないですが)に、この4月にイースト・ハウストン通りの近く(Ave Cと2nd st.の角)に新たにできる「The Stone」というクラブは、店内にバーは作らず、ライブのドアチャージは全額ミュージシャンに渡るらしい。家賃などの運営資金には、ツァディック・レーベルから出すスペシャルCDの売り上げ(通常の流通には乗せずにNYのダウンタウンミュージックギャラリーの店頭とインターネットでのみ販売)を当てる予定だとか。