Caffe Vivaldi in West Village


ウエストヴィレッジの静かな一角にある隠れ家のようなカフェは、エスプレッソ・マキアートがとてもおいしい。ヨーロッパ風の落ち着いた雰囲気の歴史のあるカフェで、ニューヨークには珍しく、いつも静かなクラシック音楽が流れている。メインストリートから離れているので地元の人しか訪れない。ここに来てぼんやり通りを眺めながらコーヒーを飲んでいると、ウィーンにいるような気持ちになれる。秋の日曜日の午後を過ごすのにぴったりの場所だ。

店内には暖炉とグランドピアノがあって、日曜の午後にはクラシックピアノのライブ演奏もある。コーヒーを飲んでいるといつの間にか誰かがピアノを弾き始めて音楽が始まっているという感じなので、コンサートというよりも誰かの家のリビングルームでピアノを聴いているみたいだ。バッハとかドビュッシーとかベートーベンとか、聞き慣れた曲もこういうアットホームな雰囲気の中で聴くと、とても新鮮に聴こえて、心にしみる。

暖炉の火をじっと見つめながら何かを考えている男性(テーブルの上にはマニュアルの中判カメラ)や、通りの向かいに止まっているワゴン車に録音機材らしい大きな機材を積んでいる二人の若者(これからどこかでコンサートがあるのか)、外のテーブルで白ワインを飲みながらペーパーバックを読んでいる男性。本のページをめくるたびに、ワイングラスが少しずつ空になっていく。カフェの店内から、ドビュッシーの「月の光」のピアノ演奏が流れ出す。ふと目を上げて、ペーパーバックをテーブルに伏せ、じっと何かを考えている。空っぽのワイングラス。胸ポケットから携帯電話を取り出して、どこかへ電話をかける。相手は出ない。携帯電話をしまって、机の上に伏せたペーパーバックに目を落とし、またじっと何かを考えている、静かな真剣な瞳。2本目のタバコを吸ってから、ゆっくりした動作でペーパーバックを閉じて鞄にしまい、立ち上がって店に入り、カウンターでお金を払って店を出て行く。外のテーブルには空っぽのワイングラスがいつまでも残っている。