クリストフ・クルツマン特集@WIRE

yukoz2006-10-24

WIRE11月号のクリストフ・クルツマン特集は、近頃のWIREにしては良い記事だと思います。2年前のAMPLIFYのベルリン最終セットの「schnee」のライブ(後にerstliveのCDとしてリリース)は、あのフェスティバルの最後のセットだったからこそ生まれた演奏だったということが、やはり本人の口からも語られていました。あれは、緊張感に満ちた微音と静寂の即興の祭典であったAMPLIFYベルリン祭の締めとして、誰もが予測していなかった演奏だったと思います。

アーストワイルのフェスでプリンスの歌を歌う人が出るとは思いもよらなかったし、あれがプリンスの歌だったとは誰も気づかなかったほど巧妙にアレンジされてたし(元歌を聴いてびっくり!てっきりトーマス・ベルンハルトの小説のようなウィーンの厭世詩人の作品を滅滅と朗読しているのかと思った)、クルツマンの電子音を交えた編曲の才に驚かされました。他のセットを通して聴いてきた観客の多くが、いつしか張りつめた緊張の極みとぎりぎりの静寂を演奏に期待していたところへ、あの堰を切ったように溢れ出した抒情と、人間の心の声を思わせる電子音の渦の切ない響き、人肌のような温もりを発する緩んだブルクハルト・シュタングルとクルツマンの弾き語りは、AMPLIFYに落とされた爆弾のように衝撃的で新鮮でした。ある意味で、ああいう「アンチ・アーストワイル」的な演奏こそが、AMPLIFYの面白さなのだと個人的には思います。主催者や観客の多くが予測し期待しているものとはまったくかけ離れたものが起きてくれなければ、たとえ全演奏が世界最高レベルの即興と呼べる珠玉のセットであったとしても、つまらないフェスティバルになるだろうなと感じます。ポップスの要素を即興などの演奏に取り入れることは、ばりばりの即興ファンには邪道とみなされるようですが、要はどれだけそれを自分のスタイルの中でうまく料理できるかによると思うんですよね。その点で、クリストフ・クルツマンはラップトップ奏者として世界最高のレベルにあるだけでなく、ポップスやロックの「歌」を独自のスタイルで歌える際立った才能とセンスがあると思います。

今年のErstQuake3では、初日のマッティンが、80年代ポーランドのアングラカフェで「党打倒!」を叫びながら労働者を煽動する「連帯」指導者みたいで、なかなかよかったです。あらかじめマッティンの大音量ノイズを恐れて客席の後ろの方へ避難していた微音即興ファンの観客たちの方へ向かって、大声で叫びながら歩いていったので、彼らはマッティンに襲われるんじゃないかと思ってビビったそうです。